2021年8月31日に公開したコラムでご紹介しました育児介護休業法の改正の他にも、みなさまに知っていただきたい法改正情報はまだまだあります。
今回の記事では、今年の社会保険の法改正ポイントについて解説します。
目次
- はじめに
- 傷病手当金の支給期間の通算化
- 在職老齢年金制度の見直し
- 厚生年金保険 繰下げ受給の上限年齢の引上げ
- 社会保険の適用拡大
- おわりに
1.はじめに
今年の法改正の目玉となったのは、育児介護休業法の法改正でしょう。対応方法について、弊社にも既に多くのお問い合わせをいただいております。その他、在職老齢年金制度の見直し等、人事業務の携わる方々が知っておくべき改正点は他にもありますので、ポイントについて紹介します。
2.傷病手当金の支給期間の通算化
【2022年1月1日施行】
現在の健康保険における傷病手当金の支給期間については、同一の疾病・負傷に関して、支給を開始した日から起算して1年6か月を超えない期間とされており、その間に被保険者が一時的に労務可能となり、傷病手当金が支給されなかった期間についても、1年6か月に含まれる制度とされています。すなわち、支給期間中に途中復帰をした場合には、1年6か月の間にどうしても不支給になる期間ができてしまいます。
今回の改正により、支給期間について見直され、出勤に伴い不支給となった期間がある場合には、その分の期間を延長して支給を受けられるように変更されました。したがって、支給期間を通算し合計1年6か月分支払われるようになります。なお、支給期間の途中で傷病が治癒した際には、その時点で給付金の支給は終了します。
3.在職老齢年金制度の見直し
【2022年4月1日施行】
続いて、在職老齢年金制度の見直しについてです。2021年4月1日より施行された高年齢者雇用安定法の改正(詳しくはこちらのコラムをご参照ください。)では、65歳までの継続雇用義務、また70歳継続雇用努力義務が決まり、大企業では70歳までの雇用が求められつつあります。これに伴い、在職老齢年金制度も見直されることとなりました。
まずは在職老齢年金制度から復習しましょう。在職老齢年金制度とは、70歳未満の人が厚生年金保険に加入しながら働いている場合や、厚生年金保険制度のある企業で働いている場合、年金と給与(賞与を含む)の合計額が一定の金額を超えると、その報酬に応じて年金の一部または全部が支給停止となる制度です。
図:現状の在職老齢年金制度
【参考】日本年金機構|60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
日本年金機構|65歳以後の在職老齢年金の計算方法
70歳まで働くことを期待している中で、年金の支給停止は労働意欲の低下を招きかねません。そこで今回の改正では、60歳から64歳の在職老齢年金制度支給停止の基準額が見直され、28万円から現行の65歳以上の在職老齢年金制度と同じ47万円に引き上げられました。これにより多くの方が年金を満額もらいながら、給与ももらえる仕組みに変わり、70歳まで働いてほしいという企業や労働者の意欲の維持が見込まれています。
4.厚生年金保険 繰下げ受給の上限年齢の引上げ
【2022年4月1日施行】
公的年金は、原則として65歳から受け取ることができます。現行制度では、希望すれば60歳から70歳の間で自由に受給開始時期を選ぶことが出来ます。早く受け取り始めた場合(繰上げ受給)には減額(最大30%減額)した年金を、65歳より遅く受け取り始めた場合(繰下げ受給)には増額(最大42%増額)した年金を、それぞれ生涯を通じて受け取ることができます。
今回の改正では、在職老齢年金制度の改正理由と同様に、高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者自身が就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるように見直しが行われました。改正により、現行70歳の繰下げ受給の上限年齢が75歳に引き上げられ、受給開始時期を66歳以降75歳までの間で繰下げの選択が可能となりました。これに従い、繰下げ増額率は1か月あたり0.7%、最大で84%となりました。
5.社会保険の適用拡大
【2022年10月1日施行】
現在、パートタイマーやアルバイト等、短時間就労を行う人は「1週間の所定労働時間」および「1月間の所定労働日数」が常時雇用者(正社員)の4分の3以上であれば、社会保険の加入対象となります。また、4分の3の基準を満たさない場合であっても、特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤務し、次のすべての要件に該当した者は短時間労働者として社会保険の加入対象となります。
① 週労働時間20時間以上
② 雇用期間1年以上が見込まれる
③ 月額賃金8.8万円以上
④ 学生(昼間部)ではない
特定適用事業所とは、社会保険の被保険者が常時500人を超える事業所です。任意特定適用事業所とは、社会保険の被保険者が500人以下でも労使合意に基づく申出をした事業所です。
今回の法改正では、加入要件が段階的に拡大されることが決まりました。現行の条件は2022年9月まで継続され、2022年10月に要件が2か所変わります。
1つめは、特定適用事業所の人数要件です。常時500人超から、100人超まで大きく引き下げられます。
2つめは雇用期間要件です。雇用期間が、1年以上見込まれる者から2か月以上見込まれる者へと対象が変更となります。
その後2024年10月からは、特定適用事業所の人数要件がさらに半数の50人超へと緩和されます。
図:社会保険の適用拡大(短時間労働者)
これにより、今まで加入対象でなかった短時間労働者の多くが、社会保険の加入対象となる見込みです。段階的に改正される予定ですので、自社の事業所の人数を再確認し、どのタイミングで適用対象となるのか、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
6.おわりに
今回のコラムで取り上げた法改正は、在職老齢年金制度の見直しや社会保険の適用拡大等、実務に影響する改正もあります。法改正情報のキャッチアップは大変ですが、自社にどのような影響があるのかも含め、しっかりと内容を確認していただきたいと思います。
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