第1章 第6節 総括
千鳥ヶ淵研究室 統括責任者 小林 幸雄
昨年9月から千鳥ヶ淵研究室で、コロナ禍における労務管理に関する報告書として在宅勤務をテーマに、第1節在宅勤務の定義、テレワークの定義、第2節在宅勤務の導入プロセス、第3節会社から見るテレワークのメリット・デメリット、第4節統計でみるテレワーク、第5節諸外国のテレワークを報告してきた。第6節では研究室統括責任者である筆者(小林)が総括する。
本節では弊社のリモートワーク導入の経緯と、コロナ禍における在宅勤務の現状を報告し、合わせて2016年安倍内閣が提唱した、「働き方改革」の9項目のテーマのうちの一つである「テレワーク、兼業・副業といった柔軟な働き方」を検証することにより第1章の総括としたい。
1、弊社が在宅勤務を始めた経緯と基本方針
弊社は、政府の方針に先立って、2015年1月より「働き方改革」を実践しているが、その動機は、新規受注案件の増加や社労士業務以外の異業種への進出による職員のストレス・高負荷の改善と、仕事と生活の両立が図れる居心地の良い会社となるよう、多様な働き方を用意する必要性を鑑み導入したものである。
弊社における「働き方改革」は、筆者が2014年10月に職員に対して「働き方改革」の目的を従業員と共有するため、わかりやすく「いい会社にしたい!」というメッセージに変えて宣言を行うことから始まり、①残業時間ゼロ実現、②短時間正社員制度、③在宅勤務制度の3つの制度を柱に、取り組みを実現した結果である。
その顛末を時系列で整理すると下記のとおりとなる。
① 残業時間ゼロ実現についてプロセスは割愛するが(https://www.kobayashiroumu.jp/information/certification?id=#worklifebalance を参照)、労使双方で試行錯誤、対話を重ね実現させた結果、2015年に東京都から長時間労働削減部門で表彰され、ワークライフバランス企業の認定に至る。
② 短時間正社員制度は、今回のテーマではないので詳細は省略するが、育児・介護・自己啓発等でフルタイム勤務できない職員に対し、柔軟な働き方を用意する目的で制度を導入したが、中途採用者の求人募集にあたり優秀な人材の確保にも有効であることに気付かされた。
③ 在宅勤務は、コロナ禍で感染防止の有効な手段として行政の要請もあり一気に普及した。しかしながら、筆者は在宅勤務制度を多様な働き方の選択肢の一つに過ぎないと考える。したがって以下に報告する弊社の在宅勤務制度については、働き方改革が原点にあることを確認しておきたい。
2、弊社の在宅勤務導入事例と導入経費、および助成金の活用について
弊社の在宅勤務制度の導入事例については、弊社の勤務社労士の高嶋が2017年5月の日本法令SRの第45号に「社労士事務所の働き方改革~在宅勤務制度導入事例」詳細を執筆しているので引用したい。なお、掲載当時と現在の状況は法改正もあり、内容に若干の齟齬がある。 (日本法令SR第45号)
3、弊社の在宅勤務の規定例とコロナ禍におけるリモートワークの現状
弊社の現行の在宅勤務規程は下記のとおりである。
2015年当時の規定が生きているので、感染防止を目的とした在宅勤務を命ずる内容とするためには違和感のあるものとなっている。特に第3条(手続き)と第4条(在宅勤務期間)は、感染防止を目的としたテレワークを命ずるには見直しが必要となる。そこで、弊社では政府による2020年4月の緊急事態宣言が発出された翌日に「新型コロナウイルス感染拡大防止による在宅勤務における方針」を、2020年8月1日に「新型コロナ感染拡大防止に関する在宅勤務に関する基本方針」を定め在宅勤務を実施した。また、2021年1月の2回目の緊急事態宣言発出の際の基本方針も添付するので参照されたい。
別紙2 新型コロナウイルス感染拡大防止による在宅勤務における方針
別紙3 新型コロナ感染拡大防止に関する在宅勤務に関する基本方針
別紙4 2021年1月7日1都3県緊急事態宣言発出における勤務方針
コロナ禍における感染防止のためのテレワークは、スピード感を持った運用を行わねばならず、就業規則を改定し従業員代表の意見を聞いて労基署に届け出をするという一連の手続きを経ていては間に合わないので、社命で在宅勤務を行ったことはやむを得なかったと考えている。
次に在宅勤務中の労働時間の管理であるが、弊社では、SNSを使い勤怠報告させ、クラウド上で労働者が始業・終業時間を入力し勤怠管理を行っている。時間外労働は、前述のとおり行わない前提となっているが、 一日の労働時間を1分単位で集計し、月30分に満たない労働時間は切り捨て、30分以上を切り上げることとしている。
在宅勤務をはじめとするテレワークにおける勤怠管理は煩雑であるので、みなし労働時間制度を取り入れる企業もあるかとは思われるが、その場合要件があり、
①PC等の情報通信機器が使用者の黙示の指示を含め常時通信可能となっていない。使用者の指示に即応する義務がない。
②在宅業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていない。
という2点を満たす必要がある。
※詳細は、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を参照。
しかしながら、労働時間管理と就労環境の整備およびチェックは、労働安全衛生の観点からも重要であり、PCの使用時間をアクセスログにより把握し、長時間労働にならないように留意すべきである。
なお、「コロナ禍における労務管理の報告書」の第2章のテーマは、「コロナ禍における健康管理と安全衛生」と決定し執筆が始まっている。
4、筆者の考える在宅勤務のメリット・デメリット
前述したように弊社では2015年から働き方改革の一環として在宅勤務を行っていたが、在宅勤務が常態化していたわけではない。
在宅勤務 を希望した者は、育児や介護といった個人の生活と仕事を両立させるために在宅勤務を選択したのであるが、理由が解消すれば通常勤務となる。
しかしながら、在宅勤務をはじめとするテレワークはコロナ禍において感染防止と行政の要請に協力するという観点から必須となり、職員の命を守るためにも在宅勤務を社命で行った。
筆者も自宅、沖縄うるま事務センター、弊社那須保養所においてリモートで業務を行うことがあるが、当初は不自然に感じたリモートによる役員会議、採用面接、長時間におよぶ顧客との打ち合わせも慣れてしまえば違和感はない。そのような状況で在宅勤務を選択するか否かの判断を筆者は恣意的に選択しているが、出勤しなければならない日の朝が億劫になっていることは事実である。
経営者として職員の顔色を観察し、社是である「仕事は楽しくチームワークで」を実践するのが筆者の役割であるが、それをテレワークで完結する事はできないし、仕事の内容、職位によってテレワーク は限界があると考える。コロナ禍が終息し、マスクで顔を隠して対面することが失礼だった元の生活に戻った時に、筆者はテレワークが本来の目的で運用できるか懸念している。
いずれにしてもテレワークは、労働人口が減少する中で優秀な人材の確保、業務効率・生産性の向上、BCPなど様々なメリットが考えられ、コロナ禍でそれが大幅に普及したことは否めないが、 弊社の顧客の状況を検証する と医療・介護をはじめとするエッセンシャルワーカーや製造業や建設業など業務の内容によりテレワークが導入しにくい業種もあり、数値目標を立ててテレワーク導入を検討するようなことはせず、自社の状況に応じて柔軟に多様な働き方を構築することが肝要ではないかと考える。
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