第2章 第5節 ハラスメント
千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 黒沢和也
本節では、コロナ禍における職場内のハラスメントについて、新型コロナウイルス感染症に対する恐怖心・誤解や偏見により、知らず知らず誰かを排除したり、差別をする事のないよう、正しい知識と対応について確認していく。
1.新型コロナウイルス感染症に対して過剰な反応にならない
ハラスメントの大きな原因は「新型コロナウイルス感染症に対する不安やストレス」と考えられる。本章「第4節コロナ禍におけるメンタルヘルス 1、ストレスを感じる労働者の増加」において、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」より「何らかの不安を感じた人の割合」は6割を超えている。また、不安の対象としては「自分や家族の感染への不安」が6割以上と最も多く、この様な状況下からハラスメントが発生しやすい環境が生み出されているのではないだろうか。
不安やストレスを軽減するためには、感染方法、感染期間、予防対策等を理解し自ら新型コロナウイルス感染症に感染しない対応を心掛けなければならない。厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」※1では次のように記載している。
・新型コロナウイルス感染症にはどの様に感染するのか
感染には一般的に飛沫感染と接触感染が考えられる。
飛沫感染 感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出
され、他者がそのウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染する。
接触感染 感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れ
るとウイルスがつく。他者がそれを触るとウイルスが手に付着し、
その手で口や鼻を触ることにより粘膜から感染する。
・感染者から感染する可能性があるのはいつまでなのか
発症の2日前から発症後7~10日間程度の期間、他者に感染させる可能性が
あるとされている。
・新型コロナウイルス感染症の予防法
基本的な感染予防(咳エチケット、手指衛生等)や不要不急の外出の自粛、3
つの密(密閉、密集、密接)を避けること等が重要である。
上記を踏まえ、職員間の距離確保、定期的な換気、仕切り、マスクの徹底など、密にならない工夫を行い、職員へのストレス軽減を心掛けたい。新型コロナウイルスに感染した方を思いやり、その立場を守って行動していくよう努力していきたい。
2.インターネット上で見受けられる職場内でのハラスメント例
インターネットで、「新型コロナウイルス ハラスメント」で検索すると、数多くのハラスメント情報が検索される。その中より企業内で発生している事例を掲載してみた。
・あなたの奥さん、病院で働いてるんだよね。悪いけどしばらく出社は控えてほしい。
・新型コロナウイルスに感染した職員が会社に復帰するとき「陰性証明を持ってこい」と言われた。
・○○さん職場復帰したけど後遺症があるみたい。感染するかもしれなから近寄らないようにしよう。
・コロナウイルスによる休職後、治癒したために復職したが職場内で避けられるようになり、私一人だけ別室に隔離されるようになった。
・○○さん新型コロナウイルスに感染したんだって。どうせ夜遊びして感染したんじゃない?
・コロナワクチンを接種していない職員に対して「出勤停止」と言われた。
この様な発言の多くは、企業や自分自身を守るためかもしれないが、つい誰かを排除したり差別的な発言をしたりすることのないよう企業全体で冷静に対応するよう心掛けていかなければならない。
ハラスメントとは嫌がらせの総称であり、「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」等がある。ハラスメントが企業に及ぼす悪影響は、人材流出、社会的信用の失墜、民事上の責任、権利侵害等多くのリスクをもたらす。使用者として責任を負う企業に対しても、使用者責任に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)や、労働者に対して負う安全配慮義務違反として債務不履行責任に基づく損害賠償請求(民法415条)を受けることも十分に考えられる。そのため企業としてはコロナ禍独特のハラスメントもありうることを想定して職員への配慮を行いつつ、差別的取り扱いがなされないよう十分に模索し続けることが重要といえるのではないか。
次節では、第1節から第5節を総括し述べていく。
<参考資料※1>
・新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
<参考資料※2>
・2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000683138.pdf
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