第3章 第1節 コロナ禍における施策一覧

第3章 第1節 コロナ禍における施策一覧

千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 小松容己

 

第1節 コロナ禍における施策一覧

政府がこれまでコロナ禍で講じてきた施策は数多くあるが、本節では、厚生労働省が講じてきた施策について確認し、また、諸外国との違いについても考察する。

1、厚生労働省の施策

1)雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度である。現在は新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、労使間の協定に基づき、休業を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度となっている。この特例措置により、助成率及び上限額の引き上げを行っている。詳細については、次節で論じていく。

2)新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金
新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規雇用・非正規雇用を問わず、労働基準法で定められている年次有給休暇とは別に、有給の休暇を取得させた企業に対する助成金である。

3)時間外労働等改善助成金 新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース
新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを「新たに」導入する
中小企業事業主に対して助成する制度である。
なお、本助成金は、事業実施期間が令和3年1月29日までとなっており、募集は終了している。

4)労働保険料等の納付に係る猶予制度
新型コロナウイルス感染症等の影響により、労働保険料等の納付が困難な場合には、
労働保険料等の猶予制度である。猶予制度が認められた場合には、猶予期間中の延滞金の免除や、財産の差押えの猶予又は解除といった効果を受けることができる。詳細については、第3節で論じていく。

5)厚生年金保険料等の納付に係る猶予制度
新型コロナウイルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった事業主の方にあっては、申請により、厚生年金保険料等の納付を1年間猶予することができる特例制度が令和2年4月30日に施行された。詳細については、第3節で論じていく。

2、諸外国の施策

【米国】

1)全業種の中小企業に対する融資の返済免除
中小企業(従業員500名以下)向け政策融資について、従業員の雇用・給与水準を8週間維持することを条件に、当該期間中の人件費・利子・家賃・光熱費に相当する金額の返済を免除する。州によっては、独自の制度がある。

【ドイツ】

2)全業種の中小零細企業に対する現金給付
従業員5人以下の事業者に最大9千ユーロ(108万円)、従業員10人以下 の事業者に最大1.5万ユーロ(180万円)を給付する。州によっては,従業員11~250人の企業も州政府からの給付金の支給対象となる。

3)従業員の給与補填(操業短縮手当)
新型コロナウイルスの影響により一時的に操業短縮し、10%以上の労働者について10%以上の賃金減少があった場合、労働時間減少による給与減少分の一部(60%。子供がいる 場合は67%)を政府が補填。また、社会保険料は全額補填。労働者1人当たり月額約2,980ユーロが上限となっている。

4)失業給付の拡充
自営業者及び被雇用者を対象に失業給付の要件緩和。

3、日本と諸外国の施策の違い

本節では、厚生労働省が講じてきたあるいは講じている施策に絞っているが、基本的には諸外国との施策についての違いはないように見受けられる。
それは、雇用調整助成金のように、従業員の雇用維持の支援のため、従業員の給与を補填するものと、経済産業省が講じてきた持続化給付金のように、事業継続の支援のため、影響を受けている中小・小規模企業等に対して現金給付等を行うものとの2つに分類されるためである。
ここで一つ追記したい。諸外国、本節においては米国とドイツを例示しているが、雇用の背景が異なる場合でさえも日本と共通して雇用維持や、事業継続に努めている。そこで、若干の上記二国の雇用概要について触れたいと思う。

【米国】

アメリカの雇用形態は、「随時雇用・随時解雇」が原則とされる。この考え方は、使用者と労働者はあくまで契約の概念に基づいて結ばれており、契約した職務が遂行できない場合には使用者は、「契約不履行」として解雇する事が可能とされる。日本の使用者が解雇権を行使する場合に、適正な手続きを満たしていることを重視する点とは大きく異なる。

【ドイツ】

日本の有期雇用労働者の場合、契約期間の定めや契約更新の手続きを重視する。一方、ドイツの労働契約書は原則的に無期限で、退職するまで更新する必要がない。なお、解雇の運用に着目すると、両国とも、単に解雇事由に該当するだけでは不十分など比較的厳格な印象があるが、最終的には個別の事案に依る部分も大きいとされている。

4、おわりに

日本だけでなく諸外国の施策一覧を見て、雇用に関する考え方が異なっていても、各国ともに従業員の雇用維持の支援や、事業継続の支援のために政策を打ち立てていることが伺え、各国が一丸となってコロナ禍を乗り越えようと模索していることが見受けられる。

 

次節以降では、本節で挙げた施策一覧を深堀していくこととする。

 

【参考文献】

令和2年5月 内閣官房日本経済再生総合事務局

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai38/siryou3.pdf

 

 

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP