第3章 第2節 雇用調整助成金について
千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 小松容己
前節では、厚生労働省がこれまでコロナ禍で講じてきた主な施策を論じたが、本節では、雇用調整助成金について述べていく。
1、通常時の雇用調整助成金とコロナ禍における雇用調整助成金の違いについて
1)通常時の雇用調整助成金
雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度である。また、雇用調整助成金は、雇用保険二事業の助成金であることから、全額が事業主負担となっている。
受給要件は、以下の通りである。
①雇用保険の適用事業主であること。
②売上高又は生産量などの事業活動を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少していること。
③雇用保険被保険者数及び受け入れている派遣労働者数による雇用量を示す指標について、その最近3か月間の月平均値が前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと。
④実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること。
・休業の場合
労使間の協定により、所定労働日の全1日にわたって実施されるものであること。
・教育訓練の場合
休業の場合と同様の基準のほか、教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであり、当該受講日において業務(本助成金の対象となる教育訓練を除く)に就かないものであること。
・出向の場合
対象期間内に開始され、3か月以上1年以内に出向元事業所に復帰するものであること。
⑤過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある事業主が新たに対象期間を設定する場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えていること。
この他にも、雇用関係の助成金共通の要件等がいくつかある。
次に、受給額について見てみよう。
受給額は、休業を実施した場合、事業主が支払った休業手当負担額、教育訓練を実施した場合、賃金負担額の相当額に助成率(下図1を参照)を乗じた額である。ただし、教育訓練を行った場合、これに下図2の額が加算される。(ただし受給額の計算に当たっては、1人1日あたり8,265円を上限とするなど基準がある。)
休業・教育訓練の場合、その初日から1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分受給でき、出向の場合は最長1年の出向期間中受給可能である。
■図1
助成内容と受給できる金額 | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|
(1)休業手当、教育訓練を実施した場合の賃金相当額、出向を行った場合の出向元事業主の負担額に対する助成(率) | 2/3 | 1/2 |
(2)教育訓練を実施したときの加算(額) | 1人1日あたり1,200円 |
2)コロナ禍における雇用調整助成金
コロナ禍における雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るため、労使間の協定に基づき、休業を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度である。また、事業主が労働者を出向させることで雇用を維持した場合にも、コロナ禍における雇用調整助成金の支給対象となる。
コロナ禍における雇用調整助成金は、特例措置となるので、助成率及び上限額の引き上げを行っている。
受給要件は、通常時の雇用調整助成金に比して緩和されているので、見てみよう。
■図2
要件項目 | 通常時 | 特例措置 |
---|---|---|
生産指標 | 3か⽉10%以上低下 | 1か⽉5%以上低下 |
対象労働者 | 被保険者が対象 | 被保険者でない労働者も対象 |
助成率 | 中⼩企業2/3、⼤企業1/2 | 中⼩企業4/5、⼤企業2/3(4/5※)(解雇等を⾏わないで雇⽤維持をした場合は、中⼩企業10/10、⼤企業3/4(10/10※) |
助成上限額 | 失業等給付基本⼿当の最⾼⽇額と同額 | ⽇額上限額 15,000円 |
計画届 | 事前提出 | 提出は不要 |
被保険者期間 | 6か月以上が必要 | 期間要件なし |
支給限度日数 | 1年100⽇、1年150日 | 通常の限度⽇数+特例措置期間 |
※昨年1⽉の再度の緊急事態宣⾔の発出に伴う特例措置で、都道府県知事の要請を受けて営業時間の短縮に協⼒する飲⾷店や劇場、映画館等に対しては、大企業の助成率を中小企業と同等(解雇等ない場合10/10)に引き上げている。
新型コロナウイルスに伴う特例措置は、令和2年4月から行われているが、当初は申請にあたり、活用しにくい部分もあったが、申請書類の簡素化・休業等計画届の提出の不要・オンライン申請の受付など政府が活用のしやすさに取り組んだことにより、申請率は当初より大幅に上がったといえる。
2、雇用調整助成金の効果
1)申請件数・支給決定額
申請件数・支給決定額は、令和3年度(4/1~3/11)時点で、申請件数は、累計で約300万件、支給決定額は、累計で約2兆2,886円となっており、多くの企業が活用していることが窺える。
2)失業率について
総務省の労働力調査によると、失業者の増加はあるもののそこまで変動は大きくはない。また、完全失業率については、下図の通り、ほぼ横ばいとなっており、直近の1⽉は2.8%という低い⽔準にある。完全失業率がリーマンショック後の5.5%と比して低い⽔準にとどまっていることは、新型コロナウイルス感染症に伴う雇用調整助成金が大きな効果を発揮していることが読み取れる。
出典:総務省 労働力調査(基本集計)2022年1月分結果
3、おわりに
新型コロナウイルス感染症という未曾有の危機に直面している中、政府は、雇用維持のために雇用調整助成金の特例措置の延長を決めたが、果たしていつまで延長すべきかという疑問の余地がある。それは、このコロナ禍であっても、感染対策など様々な対策を講じて事業継続を図っている企業がある中で、従業員を休業させ、休業手当の助成を受けている企業もある。業界・業種ごとに事情が異なるとはいえ、自助努力を図っている企業にとっては不平等を感じることもあるだろう。
また、財源の問題もある。新型コロナウイルスに伴う雇用調整助成金の支給増加によって、雇用調整助成金の財源である雇用保険二事業財政は枯渇する懸念がある。このような状況から、雇用保険二事業に係る雇用保険料率は、令和4年4月から、3.5/1000(現行3/1000)に引き上げられる予定である。
最後に、機を逸したが、雇用調整助成金への一般財源の投入を考えるべきではないだろうか。それに伴い、こちらも現状の財源は雇用保険二事業として事業主負担ではあるが、労働移動支援助成金(事業規模の縮小に伴い、離職する労働者に対して再就職支援を委託することで、早期に雇入れの拡大等を実行したことによる助成金)等の特例措置を行うなど検討の余地があるのではないだろうかと考える。
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