第4章 第2節 副業・兼業
千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 遠藤恵
前節では、ジョブ型雇用について論じてきたが、本節では、副業・兼業に関する事柄について述べていく。
1、はじめに
副業と兼業について法的な定義はされておらず、また、行政機関においても明確な使い分けはせずに「副業・兼業」とひとくくりにして表現している。そのような中、一般的な認識として、「副業」は、本業とあまり関連性がなく、本業を中心としつつ空き時間に行う仕事というイメージを持たれることが多い。一方で、「兼業」とは、本業と関連性の高い仕事であり、本業と同等の水準で行う仕事を示す傾向にある。
なお、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、「副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等さまざまである。」とあるように、使用者と“労働契約”が発生しない「自営業主(フリーランス)等」としての働き方も副業・兼業に含まれているものであるが、本節では、“労働者”という立場で労働契約関係が成立していることを前提として副業・兼業を行う際の留意事項等について整理をしていく。
1)副業・兼業への期待
副業・兼業は、スキル向上や新たな知識・技術の習得、副業で得たものを本業に役立てるといった相乗効果、さらには第2の人生の準備として期待できるとされている。また、個人の視点からも人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を構築していく努力が求められるとされ、多様な働き方への関心が高まっている。さらに、企業においても副業・兼業を容認する動きが広がっている。
2)企業に求められる対応
このような近況において、企業が副業・兼業を進めるうえでどのような対応が求められるのだろうか。まずは、就業規則などの見直しにより、副業・兼業を認める環境を整えることである。次いで、「労働時間の通算管理」が課題として挙げられる。労働契約に基づき副業・兼業を行う場合、原則として、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して管理しなければならない。労働時間を通算して管理するために、労働者が行う副業・兼業の内容を確認する体制整備が必要であり、そのためには、副業・兼業を開始する前に、労働者からの申告等により、当該情報を確認するための仕組み作りが求められる。続いて、副業・兼業の内容を確認したら、実際に労働時間の通算を行う。労働時間の通算方法は二通りあり、原則的な方法もしくは、簡便な方法(管理モデル)のいずれかによるかを検討することができる。このように労働時間を通算し管理するにあたって、自社にとって取り入れやすい方法を採用し、自社と副業・兼業先の労働時間を確実に通算したうえで、適切な労働時間の管理を行い、長時間労働によって労働者の健康が阻害されないよう、過重労働を防止することや健康確保を図ることが重要といえる。
3)メリットと留意事項
副業・兼業を行うことのメリットは、働く方の状況によってさまざまであるが、たとえば、次のような想定できる。
- 離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、主体的にキャリア形成ができる。
- 既に行っている仕事の経験を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求できる。
- 収入が増加する。
- 一方、留意事項として考慮しなければいけない点もあり、次のようなものが挙げられる。
- 就業時間が長くなる可能性があるため、自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。
- 副業・兼業によって既に行っている仕事に支障が生じないようにすること、既に行っている仕事と副業・兼業それぞれで知り得た業務上の秘密情報を漏らさないことなどに留意する必要がある。
- 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合に、雇用保険等の適用を受けないことも考えられ、十分な社会的補償が受けられない懸念が残る。
2、副業・兼業を導入する際の考慮要素
副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように過ごすかは、基本的には労働者の自由であるとされていることから、特段の事情がない限り、副業・兼業を認める方向で検討を進めることが妥当とされうる。ここでは、副業・兼業を認めるにあたって取り組むべき内容について取り上げていく。
1)就業規則等の整備
副業・兼業を禁止や一律許可制にしている企業は、副業・兼業を認める方向で就業規則等を見直すことが望ましいとされており、就業規則等の見直しにあたっての考慮要素は、次のとおり考えられる。
- 副業・兼業を原則認めることとすること。
- 労務提供上の支障がある場合など、例外的に副業・兼業を禁止または制限することができるとされている場合を必要に応じて規定すること。
- 副業・兼業の有無や内容を確認するための方法を、労働者からの届出に基づくこととすること。
以上であるが、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うためには、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための工夫を設けておくことが望ましい。
また、副業・兼業に関しては、労働者の心身の健康の確保、ゆとりある生活の実現の観点から法定労働時間が定められている趣旨も踏まえ、長時間労働にならないように配慮することも重要な対応といえる。さらに、労働基準法や労働安全衛生法による規制等を潜脱するような形態等で行われる副業・兼業は認められず、就労の実態に応じて、同法における使用者責任が問われることにも留意しなければならない。さらに、労働者が副業・兼業に係る相談・自己申告等をしやすい環境づくりも課題であり、合わせて労働者が相談・自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いは行わないことを徹底する体制が求められるといえる。
出典:モデル就業規則より抜粋
厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、6頁。
労働者の副業・兼業について、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように使用するかは基本的には労働者の自由であることが示されていることから、上記就業規則第68条第1項において、労働者が副業・兼業できることを明示している。なお、どのような形で副業・兼業を行う場合であっても、過労等により業務に支障を来さないようにする観点から、就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましい。さらに、労働者の副業・兼業を認める場合、労務提供上の支障や企業秘密の漏洩がないか、長時間労働を招くものとなっていないか等を確認するため、上記第2項において、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握することを規定している。特に、労働者が自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、労基法第38条に定める労働時間の通算の概念を踏まえ、労働者の副業・兼業の内容等を把握するため下記に掲載している「副業・兼業に関する届出」等を用いて重要事項の確認を労使間で行うことが考えられる。
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
「副業・兼業に関する各種様式例」(参照2022年12月16日)。
2)副業・兼業を実施する前の取り組みとして求められること
①副業・兼業の内容の確認
使用者は、当然には労働者の副業・兼業を知ることができないため、労働者からの届出・申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認することが一般的といえる。その際、使用者は、副業・兼業が労働者の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの視点から、副業・兼業の届出内容を確認した結果すること。その内容に問題がない場合は、副業・兼業の開始前に下記に挙げている「副業・兼業に関する合意書様式例」を活用し、労使で合意をしておくことにより、労使双方がより安心して副業・兼業を行えるようにする対応も望ましいとされる。
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
「副業・兼業に関する合意書様式例」厚生労働省、(参照2022年12月16日)。
②労働時間の管理<所定労働時間>
原則的な方法と管理モデルによる方法の2通りについて取り上げていく。
a)所定労働時間の通算(原則的な労働時間の管理方法)
前述までの段階で確認した副業・兼業の内容にもとづき、自社の所定労働時間と副業・兼業先の所定労働時間を通算し、時間外労働となる部分があるかを判断する。そして、所定労働時間を通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となり、時間的に後から労働契約を締結した企業が自社の36協定で定めるところによってその時間外労働を行わせることとなる。
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、15頁。
b)管理モデルの導入(簡易的な労働時間の管理方法)
まず、管理モデルについて触れる。
副業・兼業の日数が多い場合や、自社と副業・兼業先の双方で所定外労働がある場合などにおいては、労働時間の届出・申告等や労働時間の通算管理において、労使双方の手続上の負荷が高くなることが考えられる。そのような背景から、管理モデルは、労使双方の手続上の負担を軽減しつつ、労働基準法に定める労働条件基準が遵守される手段として、具体的な方法として次のとおり示している。
Ⅰ:副業・兼業の開始前に、
(ⅰ)当該副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(以下「使用者A」とする。)の事業場における法定外労働時間
(ⅱ)時間的に後から労働契約を締結した使用者(以下「使用者B」とする。)の事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)
を合計した時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定する。
Ⅱ:副業・兼業の開始後は、各々の使用者が上記Ⅰで設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる。
Ⅲ:使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払う。
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、16頁。
以上のような管理モデルを導入するためには、副業・兼業を行う労働者に管理モデルにより副業・兼業を行うことを求め、労働者と当該労働者を通じて副業・兼業先がそれに応じることが前提となるため、自社、労働者、副業・兼業先の三者間における協力が肝要といえる。
なお、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して、法定労働時間を超えた時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の事業場における労働時間の上限を設定しなければならない点も忘れてはならない。
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、17頁。
3)副業兼業の導入後の対応<所定外労働時間>
副業・兼業の開始後は、自社の所定外労働時間と副業・兼業先における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算していく。なお、上述の1) ② a)の所定労働時間の通算は、労働契約締結の先後の順となっており、所定労働時間と所定外労働時間で通算の順序に関する考え方が異なる。つまり、“所定労働時間”は“契約の前後関係”が優先されるが、“所定外労働時間”は契約の順番ではなく、労働した時系列に基づいて、割増賃金を負担する事業場が決まる点に留意する必要がある。
①労働時間の管理
a)所定外労働時間の通算(原則的な労働時間の管理方法)
<自社と副業・兼業先のいずれかで所定外労働が発生しない場合>
- 自社で所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算は不要。
- 自社で所定外労働があるが、副業・兼業先で所定外労働がない場合は、自社の所定外労働時間のみ通算する。
<通算した結果、自社の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合>
その超えた部分が時間外労働となり、そのうち自ら労働させた時間について、自社の36協定の延長時間の範囲内とする必要があるとともに、割増賃金を支払う必要がある。具体的には、下記に掲載する図がわかりやすく示している。
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、20頁。
b)管理モデルの実施(簡易的な労働時間の管理方法)
1)② b)により、設定した労働時間の上限の範囲内において労働を認めていることが前提にある。管理モデルの仕組みにより、使用者A(自社)はその法定外労働時間について、使用者B(副業・兼業先)はその労働時間すべてについて、それぞれ割増賃金を支払うこととなる。ただし、「管理モデルによる労働時間管理を行う合意書」において、使用者Aが、法定外労働時間に加え、所定外労働時間についても割増賃金を支払うこととしている場合には、使用者Aは所定外労働時間の労働についても割増賃金を支払うことになるため、三者間において契約内容の認識に相違がないようにしておくことも重要な取り組みの一つとなる。
②健康管理の実施
労働時間の管理と合わせて、労働者の健康管理も使用者の重要な責務と位置付けられている。そのため、企業と労働者がコミュニケーションをとり、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障を来したりしていないか、確認することが使用者に望まれている。使用者は、労使の話し合いなどを通じて、次のような健康確保措置を実施することが重要と考えられる。
- 労働者に対して、健康保持のため自己管理を行うよう指示する。
- 労働者に対して、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝える。
- 副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施する(※)。
- 自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制を行う。
(※健康診断や長時間労働者に対する面接指導などは各事業場において実施されるものである。よって、実施対象者の選定においては、副業・兼業先の労働時間は当然に通算されるものとはされていない。)
3、副業・兼業の現状等
最後に、副業・兼業の現状や、各社会保険制度と関連性について紹介する。
1)実態調査
副業・兼業を希望する者は年々増加傾向にある。副業・兼業を行う理由は、収入を増やしたい、一つの仕事だけでは生活できない、自分が活躍できる場を広げる、様々な分野の人とつながりができる、時間のゆとりがある、現在の仕事で必要な能力を活用・向上させる等多様である。また、副業・兼業の形態も、正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等多様な働き方が選ばれている。
出典:厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)、22頁。
2)労災保険の給付(休業補償、障害補償、遺族補償等)
<業務上災害>
事業主は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働者を1人でも雇用していれば、労災保険の加入手続を行う必要がある。なお、労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するものであるため、従来その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定していたが、複数就業している者が増えている実状を踏まえ、複数就業者が安心して働くことができるような環境を整備するとして、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定することとした。さらに、脳・心臓疾患や精神障害においても複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行うこととしている。
<通勤災害>
なお、労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合、一の就業先から他の就業先への移動時に起こった災害については、通勤災害として労災保険給付の対象となる。給付額については、業務上災害と同様の仕組みによりに算出される。
(事業場間の移動は、当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤であると考えられ、当該移動の間に起こった災害に関する保険関係の処理については、終点たる事業場の保険関係で行うものとしている。(労働基準局長通達(平成18年3月31日基発第0331042号)))
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf
「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(令和2年9月)」厚生労働省、(参照2022年12月16日)。
3)雇用保険、厚生年金保険、健康保険
<雇用保険>
雇用保険制度において、労働者が雇用される事業は、その業種、規模等を問わず、全て適用事業(農林水産の個人事業のうち常時5人以上の労働者を雇用する事業以外の事業については、暫定任意適用事業)に該当する。このため、適用事業所の事業主は、雇用する労働者について雇用保険の加入手続きを行うことが求められる。ただし、同一の事業主の下で、①1週間の所定労働時間が20時間未満である者、②継続して31日以上雇用されることが見込まれない者については被保険者とはならず適用除外となる。
なお、令和4年1月より65歳以上の労働者本人の申出に基づくことを前提として、一の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、二の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が開始されている。
一方で、同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において被保険者要件を満たす場合、その者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となる。そのため、副業・兼業をしている場合は、雇用保険上の給付においては、労災保険と異なり、主たる賃金のみが給付額に反映される点も肝心といえる。
<社会保険>
社会保険(厚生年金保険及び健康保険)が適用される要件は、事業所ごとに判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合は、適用されない(労働時間等を合算して適用要件を満たすという考え方は行われない)。一方で、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合には、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び健康保険組合等を選択し、当該選択された年金事務所等において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定する。その上で、各事業主は、年金事務所等から通知される被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所等に納付することとなる。
4)裁判事例の紹介
上述で紹介した就業規則は、副業・兼業について「届出制」を採用している。
そのような中、副業・兼業を行うにあたり、労働者の自由であることが原則であるものの実際には企業として認めがたいという事情も想定できる。参考として、副業・兼業を認めるべき判断基準や自社との信頼関係を継続・維持していくための要素として参考となりうる事例を紹介する。
①マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)
運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された。
②東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
教授が無許可で語学学校講師などの業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした。
③十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)
運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効とした。
④小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)
毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いことから、解雇有効とした。
⑤橋元運輸事件(名古屋地判昭和47年4月28日)
会社の管理職にある従業員が、直接経営には関与していないものの競業他社の取締役に就任したことは、懲戒解雇事由に該当するため、解雇有効とした。
⑥協立物産事件(東京地判平成11年5月28日)
本件において、使用者との雇用契約上の信義則に基づいて、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないという付随的な義務を負い、原告の就業規則にある従業員の忠実義務もかかる義務を定めたものと解されるとしたうえで、外国会社から食品原材料等を輸入する代理店契約をしている会社の従業員について、在職中の競業会社設立は、労働契約上の競業避止義務に反するとされた。
4、おわりに
副業・兼業を行う労働者の労務管理を行う場合には、労働時間の管理が最も複雑とされている。特に5ページでも挙げているように36協定に基づく労働時間の上限規制は厳密に遂行する必要があり、違反状況によっては送検対象となる懸念も否めない。適切な労務管理の一端として、まずは労働者の他社における就業状況の確認や安全配慮義務の側面から労働者の健康への配慮も同様に行うことが重要といえる。
コロナ禍においては、在宅で就労をするという選択肢も広まったため、出勤しなくとも副業・兼業が行いやすい環境に近づいているともいえる。そういった視点からも今後はより副業・兼業を前提とした労務管理が肝心とされるのではないだろうか。
次節では、選択型週休3日制について述べていくこととする。
【参考資料】
- 労務行政研究所「副業・兼業の最新実態」労政時報4017号(2021年7月9日)、16頁。
- 厚生労働省『副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説』(2022年10月)。
- 厚生労働省『「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A』(2022年7月)。
- 厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説」(令和2年9月)。
- 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(2021年3月)。
コメント