第4章 第3節 選択型週休3日制

第4章 第3節 選択型週休3日制

千鳥ヶ淵研究室 研究員 今井将太

前節では、副業・兼業について論じてきたが、本節では、選択型週休3日制に関する事柄について述べていく。

1、はじめに

現在労働基準法上の休日の定めは、1週に1日以上または4週に4日以上である。にもかかわらず週休2日制を採用している企業が多いのは、1日の所定労働時間を8時間に設定した場合に、週の労働日数を5日以内にしなければ、週の所定労働時間が40時間を超えることになるからである。

選択型週休3日制とは、その名の通り法令の定めによるものではなく、企業により選択的に導入される制度である。コロナを乗り越えた先の多様な働き方実現の1つの形としての、選択型週休3日制について述べていく。

2、選択型週休3日制を導入する際の考慮要素

1)賃金と労働時間

選択型週休3日制は賃金と労働時間の設定により、大きく3種類のパターンに分類することができる。

  • 給与減額型

1つ目のパターンは、選択型週休3日制の導入に伴い労働時間を減少させるとともに、減少させた労働時間に合わせて給与も減少させる方法である。例えば1日8時間、1週40時間の所定労働時間であったものを1日の所定労働時間を8時間のまま完全週休3日制にした場合、1週の所定労働時間は32時間(8時間×4日)に短縮される。労働時間がもとの8割となっているため、ノーワーク・ノーペイの原則に応じて基本給も8割程度まで減少させるパターンである。仕事関係の諸手当(役職手当等)についても比例減額させることが通例だが、福利厚生的な手当(扶養手当等)は不変とするのが公正である。

  • 総労働時間維持型

2つ目のパターンは、1日の所定労働時間を延ばすことで、業務量・賃金水準を維持する方法である。例えば1日8時間、1週40時間の所定労働時間であったものを1日の所定労働時間を10時間に変更することで、1週の所定労働時間を40時間(10時間×4日)のままとすることができる。休日日数は増えるものの労働時間に変更はないため、給与の減少は発生しない。また、1日の所定労働時間を10時間にする都合上、労使協定を締結し、変形労働時間制を合わせて導入する必要がある。

  • 給与維持型

3つ目のパターンは休日を増やす分労働時間は減少させるが、給与水準は維持する方法である。労働者にとって非常に有利に働く方式ではあるが、制度の適用対象者が会社内の中で限定される場合には注意が必要になってくる。

2)対象者

選択型週休3日制を社内に導入する場合、制度の対象者をどのように設定するかにより、様々な留意事項が存在している。

  • 個人単位で導入する場合

個人単位で選択して週休3日制の適用となる場合、希望者全員に対し適用するか、育児・介護等の事由がある場合に限り認めるかを検討する必要がでてくる。特に給与維持型を適用する場合には、対象外の社員と不公平感が出てくることは否めない。特定の事由にのみ認めることで社員に納得感を与えることができるが、選択型週休3日制の導入目的として副業・兼業を推奨することは難しくなるであろう。

一方、個人単位で導入する場合には、休む人員の業務に対する交代要員の確保が容易である。組織内でワークシェアリングが出来ている場合には、休日の増加に対する業務総量の低下は最小限で済むであろう。業務管理に勤怠管理・公平な人事評価といった難点も含めると、マネジメント職のスキルが求められることになるはずだ。

  • 組織単位で導入する場合

組織単位での導入となる場合、労働条件の根幹となる労働時間・賃金が個別社員の意思に関わらず変更されることとなる。労働条件の中で、休日日数・労働時間・賃金の項目について、なにをどの程度重視するかは人それぞれである。社員とのコミュニケーションを密に図り、慎重に制度を構築していく必要がある。

  • 会社全体で導入する場合

会社全体で週休3日制を採用した場合、その影響は社内にとどまらず取引先の企業へ波及する可能性がある。RPAの導入による業務効率化、業務量と納期の調整、取引先への連絡等を全社包括的に取り組み、導入前に十分な準備期間を設ける必要が出てくる。隔週で実施してみる等、試験的な導入期間を設けることを検討しても良いかも知れない。

全社員が制度の対象となるため、人事評価制度の再設計が不要となる等、導入後のマネジメントが容易な点は大きな利点としてあげられる。

3)休日

完全週休二日制を導入している企業では、休日を土曜日と日曜日に設定していることが多い。選択型週休3日制では、さらにもう1日が休日として休業日となるが、休日の定めかたは十分に考慮すべきである。

  • 休日を個人ごとに定める場合

休日を個人ごとに設定した場合、会社としての営業日は変わらないため、ワークシェアリングを十分にできていれば、会社全体での対外的な労働生産性を大きく落とすことにはならないであろう。しかし、社内的な会議・打ち合わせ等の日程調整は困難になり、上記前提となっているワークシェアリングそのものの難易度が上がってくる。適用対象の単位が個人か組織かに関わらず、勤怠管理が複雑となり企業としての負担は大きくなる。

一方で、休日を設定する裁量が個人に委ねられるため、多様な働き方を支援することで優秀な人材の確保を目的としている企業にとっては、積極的に採用したい方式であろう。

  • 休日を組織・会社単位で統一する場合

休日を統一させて場合、導入時には取引先への事情説明等で労力を要することにはなるが、逆手にとって職場改善・働きやすい風土を社外へアピールする契機にもなりえる。業務プロセスの改善等を人事部門のみならず、企画部門やシステム部門等を交えて検討する必要がある。導入時の労力は個人単位で導入するより大きいものになるが、その後の運用は安定しやすい。

3、導入事例

厚生労働省では働き方・休み方改善ポータルサイト・多様な働き方の実現応援サイトで、多くの導入事例を公表している。ここでは業種の異なる企業事例を3つ紹介する。

事例①SOMPOひまわり生命保険会社(金融・保険業)

導入目的:働き方の選択肢を増やすことで、仕事と育児・介護の両立を支援する環境を整え、介護・育児離職を防ぐこと。シニア社員の多様な働き方を支援し、多様な働き方を認めること。

制度の特徴:
・妊娠・育児・介護中の社員および再雇用社員(61歳以上)が対象。
・短時間・シフト勤務との併用を可能とし、自身にあった働き方を選択できる。
・基本給および賞与を週5勤務者の4/5とする。

事例②メタウォーター株式会社(建設業)

導入目的:外国企業等との市場競争の激化や労働力の減少、若年層を中心とした勤労観の変化といった会社を取り巻く環境の変化に適応するため。

制度の特徴:フレックスタイム制を活用し、従来1日7時間45分、週5日勤務としていたところを、1日9時間45分、週4日勤務を可能とした。

事例③株式会社JTB(サービス業)

導入目的:社員一人ひとりが自律的に働き方の柔軟性を高めることで、イノベーション創出と生産性・専門性の向上を図る。

制度の特徴:
・年間の所定労働時間・勤務日数を5つのパターンから選択できる。
・実際の勤務日は月別の取得計画を作成する。
・各人の1日の労働時間については、休日の指定とともに2ヶ月ごとに策定する。

ワーク・ライフ・バランスを重視する企業やホワイトカラーの仕事については、個人単位での取得を可能としている企業が目立つ。一方で集団での作業や特定の人が必要となる工場のラインや建設業といった業種では、組織単位で週休3日制を導入するケースが多いようである。

働き方・休み方改善ポータルサイト: https://work-holiday.mhlw.go.jp/case/index.php?action_kouhyou_caseadvanced_fourdayworkweek=true

多様な働き方の実現応援サイト: https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/case-search/

4、おわりに

前述の通り、選択型週休3日制は導入企業の業種や導入目的に合わせて、対象者や労働時間の制度設計を行う必要がある。選択型週休3日制の普及が進まないのは、法令上導入が義務付けられていない点もあるが、模範となる事例が少なく会社ごとに適した制度設計が困難であることも大きな要因であろう。

令和3年就労条件総合調査の概況をみると、現状として、選択型週休3日制を導入している企業は、全体として10%にも満たない。

令和3年就労条件総合調査の概況

出典:令和3年就労条件総合調査の概況

企業規模が大きいほど導入率も高い傾向にあるが、従業員数1,000人以上の企業であっても、まだまだ普及しているとは言い難い12.6%にとどまっている。政府の掲げる「経済財政運営と改革の基本方針」、通称骨太の方針で2021年より、多様な働き方の推進の1つとして推奨され始め、現在も模索が続いている状況だ。

コロナ禍においては、出勤日数を減らすことで感染症対策になるため導入を検討されていたが、ビヨンドコロナの時代においては働き方改革の選択肢の1つとしての導入になる。ワーク・ライフ・バランスの実現による人材の確保および定着や副業・兼業推進と並行してのスキルの向上など、選択型週休3日制のもたらす効果は多種多様である。導入を検討する際には企業内での目標となるビジョンを明確化し、十分な労使間のコミュニケーションを取ったうえでの制度設計が不可欠である。また、導入後も従業員のニーズの把握と制度の修正が必要となってくる。

繰り返しにはなるが、選択型週休3日制はその名の通り法令で義務付けられているわけではなく、努力義務でもない。影響が大きい制度だけに、事例が増えるまでしばらく様子見を決め込むことも、企業としての1つの有効な戦略になるだろう。

次節では、インクルージョンとダイバーシティについて述べていく。

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