第4章 第5節 総括
千鳥ヶ淵研究室 統括責任者 小林幸雄
2020年から3年間にわたり、千鳥ヶ淵研究室が執筆してきた「コロナ禍における労務管理」も第4章が最終章となるが、新型コロナウイルスが感染法上の二類から五類への移行が決定され、政府の指針による3月13日からマスクの着用が個人の判断となった今月が、奇しくも私の担当する第5節の総括となった。
当社では2023年3月13日をもって社内でのマスクの着用を個人の判断とし(リモートで行う全拠点一斉の朝礼時は、マスク不可)、出社時の検温記録を取りやめ、応接室・会議室の感染防止パネルの廃棄、受付に配置した消毒液の撤去など、一連の新型コロナ感染防止措置を廃止した。
これらの対策が、新型コロナウイルスの感染防止にどのくらい貢献できたのか数値によって示すことができれば興味深いが、いずれにしても煩わしい感染防止の習慣から解放され、商談や出張など気兼ねなく仕事に専念できる日常が戻ったことで、コロナ禍は収束したと考えている。
第4章は、第1節ジョブ型雇用、第2節副業・兼業、第3節選択型週休3日制、第4節インクルージョンとダイバーシティということで、コロナ渦を超えた新たな働き方の方向性を論じてきたが、コロナ禍を経て当社の就労環境も大きく変化した。
代表的なものはリモートでコミュニケーションを取ることが日常になったことである。第1章の総括でも述べたが、当社では育児や介護、転勤に応じられない勤務を想定してテレワークを位置づけていたが、今後は生産性向上に貢献するコミュニケーション手段として、リモートワークはさらに便利に進化していくものと考えている。
リモートによるコミュニケーションは、効率化という点で便利であるがデメリットもある。誰かとコミュニケーションを取るときは、確かに言葉も重要だが、感情も伝えていることを忘れてはならない。私は、感情を表現するうえで大切なものが表情であると考えている。先日リモートで行った採用面接で応募者が顔を出さないことがあった。リモートによる面接や商談は、背景や容姿・表情もその場の評価に影響するという事を考えるべきである。
また、リモートワークは同僚や先輩たちの仕事ぶりを見ることや、上司の判断を簡単に仰ぐことができないので、自分の就労やキャリアを自分で管理し築くことが必要となる。
コロナ禍は、企業も従業員も変化しないことが自身のリスクとなることを教えてくれたと思う。本章で述べたように、ジョブ型雇用、兼業・副業、ダイバーシティ・インクルージョン、リスキリングなど雇用環境や働き方が多様化し、企業は従来の考え方を変え柔軟に対応することが必要となった。従業員もまたOJTやOFF-JTによって自身のキャリアを形成することに加え、従業員自身が何になりたいか自らゴールを定め、その目標に向かってセルフコーチングする必要があると考える。
当社は、社会保険労務士のほか様々な資格取得の支援制度があるが、目標は従業員が決め、会社はそのゴールのためにサポートをしたいと考えている。
コロナ禍が収束し企業の採用活動も旺盛であるなか、今月に行った当社の採用活動で気づいたことであるが、20代前半の応募者で3回以上転職を経験している者も少なくない。何になりたいのか明確でない従業員が、安易な転職によって自身の将来を変えることができるとは思わない。
従来の判例では、企業が職能の足りない従業員を退職させたい場合、従業員の職能に関しての育成措置を企業の責任とし、従業員自身もキャリアアップの手段を企業に求める傾向にあった。しかしながら、企業にティーチングを求めるのではなく、自分自身でコーチングできるようになることが新たな働き方であり、従業員の豊かな未来を築くことになると思う。
当社は、コロナ禍でセミナーや展示会出展の中止を余儀なくされ、営業活動に影響がでたが、2020年6月からリモートセミナーを開始し、SNSでの情報発信をこまめに行い、コロナ禍によって影響を受けた売上の減少を補うことができた。
また、ものづくり補助金を活用して、弊社の開発による「e-asy電子申請.com」を改修し、事業所ごと、手続きごとに行っていた手続きを一括で申請できるようにし、社会保険手続きの大量処理を可能にした。さらにRPAの導入により効率化を図り、作業環境のDX化も進展した。それらの企業努力の結果、4月からは従業員数10万人を超える企業からの受託も内定し、業務開始に向け導入作業を進めている。
3年間のコロナ禍は、価値観や日常を大きく変化させたが、当社ではコロナ禍によって受けた経営上の試練を乗り越え、現在に至っている。これからもどんな苦難が待ち受けようと、当社の受付に掲額している二文字「瞬」 瞬時に仕事に取り組み と「厳」 厳密に仕事に向き合う という行動指針の下、事業を継続させ成長し続けることを宣言して「コロナ禍における労務管理」を終了する。
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