最近、日本でも関心が高まっているジョブ型雇用制度。実際に導入する企業も増えてきています。日本企業が導入するにあたり、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
今回の記事では、ジョブ型雇用について解説します。
目次
- ジョブ型雇用とは
- なぜジョブ型雇用が注目されているのか?
- ジョブ型雇用のメリット/デメリット
- 日本のジョブ型雇用の状況
- おわりに
1.ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用
欧米で主流といわれるジョブ型雇用とは、企業が人材を採用する際に職務、勤務地、時間等の条件を明確に定めて雇用契約を結び、雇用された側はその契約の範囲内で働くという雇用システムです。職務内容は企業側が定めたジョブディスクリプション(以下、JD)で明確に示され、企業側にはJDの内容を本人に説明する義務が、従業員側には自身のJDを理解して業務を遂行する義務があります。「定期昇給がない」「特定の業務のみを行えばいい」という情報が流布されていますが、こういった情報には多くの誤解も含まれています。
メンバーシップ型雇用
一方、日本で主流といわれるメンバーシップ型雇用とは、終身雇用を前提に総合職を採用し、配置転換しながら経験を積ませる日本の典型的な雇用システムです。 職務を限定せずに企業のメンバーとして迎え入れ、職種や勤務地、時間外労働に関しては会社の命令次第という日本独特の正社員雇用スタイルといえます。
2.なぜジョブ型雇用が注目されているのか?
昨今、新型コロナウイルスの蔓延によって、日本でジョブ型雇用への関心が急速に高まっていますが、実はそれ以前からジョブ型への注目は高まっていました。ジョブ型雇用が注目される要因は3つあります。
① 終身雇用制度の崩壊
近年、メンバーシップ型雇用とセットで制度付けされることの多い終身雇用は崩壊したという声が多く聞かれるようになりました。終身雇用は、右肩上がりの経済状況と企業の成長を前提としているため、長期的な不景気が続く日本では、制度の維持が困難であることが崩壊したとされる原因の一つです。そのため終身雇用を前提としないジョブ型雇用が注目を集めました。
② 多様な働き方への対応
ITの進歩によって産業・事業構造が大きく変化したことや、新型コロナウイルスの影響もあり、決まった勤務場所で一定時間、集団的に働く必要性は薄れています。さらに、労働力不足への対応として、女性、高齢者等、多様な働き手の労働市場への参入も増えていることから、労働時間を労働者の都合で選択できる働き方へのニーズは高まっています。しかし、そういった働き方は個々人の職務範囲や役割が曖昧なメンバーシップ型雇用では、なじみにくいという背景があります。
対してジョブ型雇用では、個々人の職務範囲や役割を明確にしたうえで、自律的に働くことや従業員の専門性を高めることが期待できます。そういった機能が、テレワークでの生産性向上につながるという考えからも、ジョブ型雇用の注目度を高めています。
③ 人材獲得競争
ITの進歩は、人材獲得についても影響を与えています。具体的に、エンジニアやWebデザイナーは日本だけでなく世界的に需要が高い分野です。そのため、専門的な能力を持った人材獲得のためには、ジョブ型雇用が主流の欧米企業との獲得競争をすることとなり、メンバーシップ型では競争に負けてしまう恐れがあります。そういった働き方のグローバル化もジョブ型雇用の注目を集める要因となっています。
3.ジョブ型雇用のメリット/デメリット
ジョブ型雇用を採用した場合のメリットとデメリットについて触れたいと思います。
メリット
- 企業の目標達成のための人材育成計画と戦略が確立しやすい
- 個人の成長と会社の成長のリンク度が高まる
- メンバーシップ型と比較して生産性の向上が期待できる
デメリット
- 採用の手法がメンバーシップ型と異なるため、企業側が新たに人材獲得戦略を立てる必要がある
- 企業側で人事のプロフェッショナル化を推進する必要がある
- メンバーシップ型雇用からの移行に、一定の時間やコストが必要となる
ジョブ型雇用が理想的な形で導入されることで、優秀な人材の確保等、企業のリターンは大きいといえますが、移行の際には、企業側がジョブ型雇用について共通認識を持って進めることが必要不可欠であると言えるでしょう。
4.日本のジョブ型雇用の状況
冒頭でも記載した通り、日本ではジョブ型雇用への関心が高まっており、実際に日本の大企業でもジョブ型雇用制度を導入した事例も増えています。しかし、ジョブ型雇用制度は日本のメンバーシップ型雇用制度と相容れない部分も多いため、企業が導入するに当たっては障壁が多いという現状もあります。実際に以下のような事情が、日本企業での導入への阻害要因となっています。
- JDの作成が困難である
- ゼネラリストを育成してきた日本では、社員のスペシャリスト意識が育っていない
- 評価・報酬制度や降格・再配置の整備が追い付いていない
- 管理職のマネジメント力が不足している
導入にあたっての障壁はありますが、現状、日本では、日立製作所や富士通等の大企業を筆頭に多くの企業がジョブ型雇用の導入を推し進めており、また、導入を検討している企業は増加傾向にあります。
経団連による「2021年版経営労働政策特別委員会報告」では、ジョブ型雇用の「導入・活用の検討が必要」と明記されたことからも、今後、日本企業における導入は進んでいくでしょう。
5.おわりに
上述の通り、大企業では検討が一部進んでいるものの、特に中小企業へは浸透しているとは言い切れません。当社へのご相談事項としては、そもそもジョブ型雇用とは何か、導入するにはまず何をしたらよいのか、評価システムや給与の決定はどうなるのか、という入り口のご相談に留まっているのが現状です。
当社では、ジョブ型人事制度セミナーの開催を行い、理解度アップに努めておりますが、具体的なご相談はこれから増えると考えます。
また、コロナ禍においてテレワークが急速に進み、ジョブ型雇用というワードが独り歩きし、注目が集まっているように感じます。
厳しいビジネス環境の中で生き残るための手段の一つであるジョブ型雇用。その導入には、慎重かつ丁寧な準備が必要となります。自社でも導入できるのか、今すぐ導入する必要があるのか、企業は慎重に見極め、ジョブ型雇用の導入自体が目的とならないよう注意しなければなりません。
会社の経営理念やミッションを達成するには、従業員それぞれの知識や経験、スキルを正しく把握し、それらの集合体を人的資本として活用していくことが重要です。その手段の一つとして、まずは「ジョブ型雇用とは何か」を経営陣、人事労務担当者の皆様が正しく理解することが大切と言えます。そのうえで、単に欧米のジョブ型雇用システムを取り入れることを目的とせず、各々の会社に適した雇用制度を検討していくべきでしょう。
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