第3章 第3節 その他の助成金について

第3章 第3節 その他の助成金について

千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 小松容己

前節では、雇用調整助成金の効果等について論じてきたが、本節では、コロナ禍で厚生労働省が対応を講じた雇用調整助成金以外の主な助成金について述べていく。

1、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

1)概要

新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止の措置の影響によって、休業させられた労働者のうち、休業手当を受給できなかった労働者に対して、その労働者の申請により、支給する制度である。

2)対象者(令和4年4月時点)

新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止の措置の影響によって、令和3年10月1日から令和4年6月30日までに事業主が休業させた中小企業の労働者及び大企業のシフト制の労働者等のうち、休業手当を受給できなかった労働者(雇用保険被保険者でない者も含む)

3)支給額(令和4年4月時点)

休業前1日あたり平均賃金×80%×(各月の休業期間日数―就労した又は労働者の事情で休んだ日数)

1日あたりの支給上限額は8,265円(令和3年10月から12月分までは9,900円)

緊急事態措置又はまん延防止等重点措置を実施すべき区域の知事の要請を受けて、営業時間の短縮等に協力する施設(飲食店等)で就労する労働者については、令和3年10月1日~令和4年6月30日の期間においては、1日あたりの支給上限額は11,000円

4)申請期限

休業した期間 申請期限
令和3年10月~令和4年3月 令和4年6月30日
令和4年4月~令和4年6月 令和4年9月30日

5)実績(令和4年4月14日時点)

厚生労働省のホームページを確認する限り、令和4年4月14日時点で、申請件数は、累計で約466万件、支給決定額は、累計で約3億円となっており、多くの休業手当が支給されない労働者が活用していることが見受けられる。

特徴としては、休業していた時期から実際に申請までの期間が空いてしまうと、休業していた時期の書類がないなど、休業していたことを証明することが困難になる可能性があるので、休業した事実があったならば、早めに申請をすることが必要な制度である。

2、新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金

1)概要・対象者

新型コロナウイルス感染症に関する対応として、ガイドライン等に基づき、臨時休業した小学校等に通う子の保護者(労働者)に対して、労働基準法で定められている年次有給休暇とは別に、有給(全額支給)の休暇を取得させた企業に対する助成金である。

2)助成額

有給休暇を取得した対象労働者に支払った賃金相当額×10/10

対象労働者1人につき、対象労働者の日額換算賃金額(通常の賃金を日額に換算した額※)×有給休暇の日数で算出した合計額である。

※令和4年1月~2月は11,000円 令和4年3月~は9,000円

緊急事態宣言の対象区域又はまん延防止等重点措置を実施すべき区域であった地域に事業所のある企業については15,000円である。

3)申請期限等

休暇取得期間 申請期限
令和4年1月1日~令和4年3月31日 令和4年5月31日
令和4年4月1日~令和4年6月30日 令和4年8月31日

4)実績

厚生労働省のホームページを確認する限り、令和4年4月15日時点で、申請件数は、累計で約22万件、支給決定額は、約627億円である。制度の違いがあり比較すべきではないが、他の助成金と比して申請件数が少ないからか、各自治体のホームページ上で、事業主に対して本助成金を活用するよう呼びかけている。

3、産業雇用安定助成金

1)概要・対象者

新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合に、出向元と出向先の双方の事業主に対して助成する制度である。令和3年2月5日に施行された。

2)助成額等

出向運営経費 出向元事業主及び出向先事業主が負担する賃金、教育訓練および労務管理に関する調整経費など、出向中に要する経費の一部が助成される。

中小企業 中小企業以外
出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 9/10 3/4
出向元が労働者の解雇などを行っている場合 4/5 2/3
助成上限額(出向元と出向先の合計) 12,000円/日

※独立性が認められない事業主間で実施される出向の場合の助成率は、中小企業が2/3、中小企業以外1/2であるので、注意が必要である。

出向初期経費 就業規則や出向契約書の整備費用、出向元事業主が出向に際してあらかじめ行う教育訓練、 出向先事業主が出向者を受け入れるための機器や備品の整備などの出向の成立に要する措置を行った場合に助成される。

出向元 出向先
助成額 各10万円/1人あたり

※出向元事業主が生産性・指標要件が一定程度悪化した企業である場合等、出向先事業主が労働者を異業種から受け入れる場合について、助成額の加算が行われる。加算額は、出向元事業主・出向先事業主ともに1人あたり各5万円である。

3)実績

令和4年4月21日時点では、厚生労働省のホームページでは確認することができなかったため、申請件数と支給決定額には言及しない。

産業雇用安定助成金は、会社を休業し、雇用調整助成金を受給することで雇用の維持を図り、かつ雇用する労働者を在籍型出向により就労させることで雇用の維持を図る企業のための助成金であるため、申請する企業も増えていくだろう。

また、一度の出向で、雇用調整助成金(出向)による出向元への助成措置にも当てはまる可能性がある。この場合は、どちらかの助成金を申請することになる。

4、おわりに

本節で取り上げたコロナ禍における雇用調整助成金以外の助成金の他にも、時間外労働等改善助成金-新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース-等も挙げられるが、既に終了しているものなので、割愛した。

コロナ禍における雇用調整助成金以外の助成金の中でも、産業雇用安定助成金は、雇用調整助成金と比して助成割合が高く、また、有効期間も1~2年単位であるため長期的に助成をうけるメリットがある。派遣社員を雇っている企業が、出向労働者の受け入れに切り替えて、産業雇用安定助成金を受給する企業も増えていくだろう。これは、ウィズコロナ時代としての新しい選択肢になると考えられる。

最後に、本節とは逸れてしまうが、雇用調整助成金の不正受給について言及したい。厚生労働省の集計では、令和2年9月~令和3年12月までに261件、支給金額にすると32億円になることがわかった。

雇用調整助成金は、コロナ禍において雇用の維持を目的に、企業が支払う休業手当を国が肩代わりするものであり、不正に受給することは断じてあってはならない。ましてや、社会保険労務士が、不正受給の指南役となったり、自らが事実を歪曲した申請を行うなど言語道断である。厚生労働省のホームページでは不正を行った社会保険労務士や企業が公表されているが、残念なことである。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00020.html

弊社のスタンスは、雇用調整助成金に絡むスポットの依頼に関しては、無料相談にとどめている。理由として、財政的に厳しい中小零細企業が、雇用を維持するために受給した助成金から報酬を得ることに違和感があるからである。厚生労働省の助成金は、雇用保険二事業が根拠となり、失業の予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発等に資する雇用対策を行った企業が受給できるのであって、社会保険労務士が金もうけの手段として助成金を活用してはならない、と筆者は考える。

次節では、標準報酬月額の特例改定について述べていくこととする。