第2章 第3節 事務所衛生
千鳥ヶ淵研究室 主任研究員 遠藤恵
本節では、在宅勤務等のテレワークで勤務する場合において、会社に求められる安全配慮義務の一端である労働衛生上の問題に連なる事項として、テレワークにおける適切な就労環境ついて確認する。
1、労働安全衛生法と作業環境
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを一つの目的としている。テレワークを実施している場合においても、会社には同法の定めに基づき、労働者の安全と健康を確保するための措置を講ずる必要が求められている。
しかしながら、テレワークを行う作業場が、労働者の自宅等、会社が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)、労働安全衛生規則((昭和47年労働省令第32号)(一部、労働者を就業させる建設物その他の作業場係る規定))及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)は一般には適用されないことから、会社は、自宅等で働く労働者に対して、これらの規則に定める基準と同等の作業環境となるように助言等を行うことが望ましいとされてきた。
2、テレワークのためのガイドライン
令和3年3月25日に公表された「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)では、在宅勤務であっても、会社における職場と同等の環境を整えられるよう、会社が従業員に助言等を行うことが望ましいと明示され、会社が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するために、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取組等を明らかにしたものである。
職場環境に注目すると、具体的に次のような環境整備(※1)が求められている。
【部屋】
・設備の占める容積を除き、10㎥以上の空間を確保すること
【照明】
・机上は照度300ルクス以上あること
【窓】
・換気設備を整え、ディスプレイに太陽光が入射する場合にはカーテン 等を設ける
【椅子】
・安定していて移動が簡易であることや、高さを調整でき、
傾きを調整できる背もたれ・ひじ掛けがあること
【机】
・十分な広さと空間があり、体型に見合ったものであること
【PC】
・ディスプレイとキーボードは分離して位置を調整できることや、
操作のしやすいマウスを使用していること
【室温・湿度】
・気流の速度や、室温、相対湿度を適切に保つよう努めること
【その他】
・椅子に深く腰掛けている等、正しい姿勢で足の裏が床についている姿勢が基本となっていること
・ディスプレイとの距離の確保や、PC等の操作が過度に長時間にならないようにすること
3、テレワークにおける作業環境の重要性
会社は、労働者がテレワークを初めて実施するにあたって自宅の環境を職場と同等の基準に近づけるために、「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】(※2)」を活用する等により、適切に実施されることを労使で確認した上で、作業を行わせることが重要といえる。
さらに、会社による取組が継続的に実施されていること及び自宅等の作業環境が適切に維持されていることを、当該チェックリストを活用しつつ、定期的に確認することが望ましい取り組みと考えられる。
一般的に、在宅勤務の環境整備というと、PCやインターネットなどの通信環境が重視されがちであるが、それ以外の椅子や机、照度なども重要な環境整備の一つであることを忘れてはならない。
そのため、会社が従業員に対して在宅勤務を命じるときや許可を出す際には、上述のような環境が整っていることを確認することが望ましいのではないだろうか。
仮に、環境の整っていない従業員に無理やり在宅勤務を行わせ、業務上災害が起こった場合、会社は安全配慮義務違反を問われる懸念も残る。
以上のことから、会社が在宅勤務を促進していくためには、事務所衛生基準に従業員の在宅環境を近づけていくことが、今後さらに重要となるだろう。そのためには、会社が環境整備のための費用を負担したり、在宅勤務そのものを許可制に留めておくといった対応を視野に入れることも考えられる。次節では、コロナ禍におけるメンタルヘルスについて述べていく。
※1 自宅等でテレワークを行際の作業環境整備
厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000546922.pdf
※2 自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】